2007年06月28日

有機農業のハナシ①

さて、ちょっと有機農業のハナシを。
1回ではとても収まらないので、暇を見て数回に分けて書いてみたいと思います。

「有機農業」と言うコトバ、皆さんのイメージとしてはプラスのイメージでしょうか、
マイナスのイメージでしょうか。
私は農業をやってますが、「有機農業」と言うコトバには、どちらかと言えばマイナスのイメージ
を持ってます。
エーとか言わないように。これからその理由を書くんですからw

「農薬や化学肥料を使わないから環境に優しくて健康にもいい」と言うのが、大方の一般的な
有機農業のイメージだと思います。
これ、実は余り当たっているとは思えないんですね。

と言う事で、今回はまず、環境に優しいというトコロから。
農業に限らず、人間の営みは須らく自分たちの都合の良い様に環境に手を加えています。
また、営みの結果として、あるいは偶発的に、環境に影響を及ぼしています。
で、この影響が人間にとって都合の悪い方向に出ると、いわゆる「環境破壊」と言うわけですね。
直接私達にデメリットが無いような、例えばどこかの無人島で昆虫が絶滅する、なんて事象も、
遺伝情報の損失として、将来「都合の悪い」影響かも知れない。
だから、種の多様性の減少だと言って歓迎されないわけです。

農業の場合。日本であれば、川をせき止めて水を曳き、入り江を仕切って干潟を干拓し、
元々は森や草原、湿地だった場所を農地として開墾しています。
そして、そこに有益な植物を茂らせるために科学肥料をまき、
収穫を確実にするために農薬を使います。

ここで、有機農業によって減らせる影響を考えてみると、後半の化学肥料、農薬の使用による
周辺への影響なのは、皆さんのイメージとも合致するかと思います。
では逆に、有機農業によって増えてしまう環境負荷を考えてみるとどうでしょう。
前半の、川や入り江を堰き止め、開墾をして自然を農地にする事による影響が増えてしまいます。

ちょっとピンと来ないかも知れないので、具体的な例を。
日本の主要農産物、米の場合です。
米の有機栽培技術が確立されたのはどのぐらい昔か、大体18世紀中盤、江戸時代中期と
言われています。当たり前ですね、昔はどこでも有機農業だったんですから。
これ以前、面積当たりの収量は品種改良や技術の改善によりジワジワと増えてきましたが、
1750年頃から20世紀初頭までの200年弱の間は、殆ど増えていません。
これは、有機栽培による米の生産技術がある程度完成したためと言われています。
もちろん、この200年の間にも地道な改良によって基礎的な生産性は若干の向上があった
でしょうが、新規に開墾される水田は立地条件の悪い場所しか残っていなかったりで、
統計的には相殺されてしまっています。

20世紀になって化学肥料、科学農薬が普及した結果、米の面積当たりの収量は、それまでの
約2倍に増えました。その後、品質の向上や省力化のためにやや減少して現在に至っています。

では、昔有機栽培しか選択肢が無かった頃と現代、収量を比べてみると。

時代   ~中世      中近代         現代         
西暦  ~1700頃 1750~1940頃     1945~
収量   ~300     300    400(質・生産性重視)~700(量重視)  単位:㎏/10a

数字はアバウトですが、ざっとこんな感じになります。
ここ半世紀ぐらいで飛躍的に収量が増えているんですね。
また、同じ生産量を維持するために必要な労働力も、1/20~1/100ぐらいに
減っているのではないかと思います。戦後ぐらいまで、田舎では殆どの家が百姓でしたからね。

で、結局何が言いたいのかというと。
有機農業では収量が減る、同じ量を賄うには1.5倍から2倍の面積が必要。
それだけ、今残っている山を切り開かないといけない。水もいるからダムも必要。
つまり、この視点では有機農業が増えると自然破壊が進むんですね。

実は、以前耕作されていた山間部の棚田などでは、耕作が放棄されて森に還っていっている
所も多くあります。
また、有機農業の先進国と言われたドイツでは、早くから有機栽培に取り組んだ農地の中では、
地力が維持できずに耕作を放棄せざるを得なくなる畑も現れてきています。
こちらは回復措置をしないとそのまま荒地になってしまうようですが。
水田に比べて自然の養分補給が少ない一般畑作では、化学肥料を使った場合に比べて、
農地を維持しながら有機栽培で同じ収量を得るには3~5倍の面積が必要だと言われています。

世界的に見れば只でさえ食料不均衡の解決に目処が立っていない上、昨今では燃料原料と
しても価値を持ち始めた農産物。地球上の人口が今の1/5ぐらいに減りでもしない限り、
有機農業による食糧供給というのは現実的ではないんですね。
巨視的に見れば、それだけ環境への負担が大きいんです。

と言う訳で、今回はこの辺で。続きはまたいずれ。


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Posted by miyaji at 23:45│Comments(0)農業コラム
 
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